早期活躍を促す傾聴術:新しいメンバーの本音と不安を聞き取る方法
はじめに
新しいメンバーがチームに加わる際、特に中途入社者や他部署からの異動者は、新たな環境への適応に少なからず不安や戸惑いを抱えています。マネージャーにとって、このオンボーディング期間中に彼らがスムーズにチームに馴染み、早期にパフォーマンスを発揮できるよう支援することは極めて重要です。単に業務内容を教えるだけでなく、彼らの「本音」や「不安」を聞き取ることが、その後の活躍やチームへの定着に大きく影響します。
ここでは、新しいメンバーの早期活躍を促すために、マネージャーが傾聴スキルをどのように活用できるのか、具体的な方法と考え方について解説します。
なぜオンボーディング期に傾聴が重要なのか
新しいメンバーが組織やチームに加わる際、彼らは以下のような状況に置かれています。
- 情報不足: 業務プロセス、社内文化、人間関係、非公式なルールなどが分からない。
- 不安: 期待に応えられるか、チームに馴染めるか、以前の経験が活かせるか、といった心理的な不安。
- 期待と現実のギャップ: 入社前や異動前に抱いていたイメージと現実との間にズレが生じる可能性。
- 孤立感: まだ周囲に馴染めておらず、気軽に相談できる相手がいない。
こうした状況下で、マネージャーが積極的に傾聴することで、以下のような効果が期待できます。
- 信頼関係の構築: マネージャーが真摯に話を聞く姿勢を示すことで、安心感を与え、早期に信頼関係を築くことができます。
- 不安の解消: 不安や懸念を言葉にすることで、新しいメンバーは気持ちが楽になり、課題が明確になります。マネージャーはその懸念に対し、具体的なサポートを提供できます。
- 状況の正確な把握: 新しいメンバーがどのような経験を持ち、何を期待し、何に困っているのかを正確に理解できます。これにより、適切な業務アサインやサポート計画を立てやすくなります。
- 組織文化への適応促進: 非公式な情報やチームの雰囲気を理解する手助けができます。
- 早期の課題発見: パフォーマンスや人間関係に関する潜在的な問題の芽を早期に発見し、対応できます。
これらの効果は、新しいメンバーの心理的安全性を高め、本来持つ能力を発揮しやすい環境を作り出すことに繋がり、結果として早期の活躍とチームへの定着に大きく貢献します。
オンボーディング期に実践すべき傾聴のポイント
新しいメンバーとの対話において、特に意識したい傾聴のポイントを挙げます。
-
初回面談・歓迎面談での傾聴:
- 目的: 新しい環境への歓迎の意を示すとともに、本人の期待、これまでの経験、現時点での不安や懸念を聴き取る。
- 聴くポイント:
- これまでの経歴や強み、特に新しいチームで活かせそうな経験。
- 今回の異動や転職に際して、期待していること。
- 現状で最も不安に感じていること、懸念事項。
- キャッチアップに必要な情報やサポートについて、本人なりに考えていること。
- 留意点: まずはマネージャーからの簡単な自己紹介やチーム紹介に留め、聴く時間に重点を置きます。専門用語の解説は控えめにし、相手が話しやすい雰囲気を作ります。
-
定期的な1on1での傾聴:
- 目的: 日々の業務での進捗確認に加え、新しい環境での適応状況、業務上の困りごと、チームメンバーとの関係性などを継続的に把握する。
- 聴くポイント:
- 日々の業務で「うまくいっていること」「難しいと感じていること」。
- 誰に相談したら良いか分からないことや、遠慮して聞けていないこと。
- チームや組織のやり方について、疑問に感じていることや慣れない点。
- 期待していた業務内容と、実際にアサインされている業務とのギャップ。
- 他のチームメンバーとのコミュニケーション状況。
- 留意点: 形式的な進捗報告だけでなく、非公式な情報や感情面についても自然に話せるような質問(例:「最近、チームの雰囲気はどう感じていますか?」「何か困っていることはないですか?」)を織り交ぜます。
-
非公式な場での傾聴:
- 目的: ランチタイムや休憩時間、社内イベントなど、リラックスした環境で本音を聞き出す。
- 聴くポイント: 趣味や個人的な関心事、週末の過ごし方など、業務以外の話から入ることで、心理的な距離を縮めます。その中で、自然な流れで業務の話題に触れ、「そういえば、最近〇〇の件はどう?」のように切り出すことも有効です。
- 留意点: あまり根掘り葉掘り聞かず、相手が話したい範囲で聞く姿勢を保ちます。あくまで非公式なコミュニケーションを楽しむことを優先します。
効果的な傾聴を促すための質問例
新しいメンバーからより多くの情報を引き出すために、以下のようなオープンクエスチョンを意識的に用いることが有効です。
- 「このチームに加わって、どのようなことに期待していますか?」
- 「これまでの経験で、特に活かせると感じるスキルや知識は何ですか?」
- 「新しい環境で、現時点で最も気になっていることや、少し不安に感じていることはありますか?」
- 「業務を進める上で、現時点で何が最も必要だと感じますか? (情報、ツール、特定のメンバーとの連携など)」
- 「チームの雰囲気や働き方について、どのように感じていますか?」
- 「何か、遠慮せずに聞けていないことや、困っていることはありませんか?」
- 「今後、どのようなキャリアパスに関心がありますか? このチームでどのように成長したいと考えていますか?」
これらの質問は、「はい/いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンよりも、相手が自由に考え、言葉を選んで話すことを促します。
傾聴した内容を活かすための行動
聴きっぱなしにせず、聴き取った内容をその後のアクションに繋げることが、傾聴の価値を最大化します。
- 情報提供: 聴き取った情報不足に対し、関連資料を提供したり、担当者を紹介したりします。
- サポート体制の構築: 不安や課題に対し、メンター制度の活用、特定のスキル研修の提案、業務分担の調整などを検討します。
- 期待値のすり合わせ: 期待と現実のギャップがあれば、丁寧に説明し、現実的な目標設定をサポートします。
- チームへの共有: 本人の同意を得た上で、自己紹介の機会を設けたり、スキルリストをチーム内で共有したりすることで、周囲が本人への理解を深める手助けをします。
- 継続的な対話: 一度聞いただけでなく、状況の変化に合わせて定期的に話を聞く機会を設けます。
避けるべきこと
オンボーディング期に新しいメンバーの話を聞く上で、マネージャーが避けるべき行動もいくつかあります。
- 一方的な説明に終始する: マネージャーが話す時間の方が圧倒的に長い状態は避けます。
- 過去の自慢話や経験談の押し付け: 自分の経験を語ることは関係構築に役立つ場合もありますが、相手の話を遮ったり、アドバイスを求められていないのに一方的に語ったりするのは避けます。
- 決めつけや否定的な態度: 相手の言葉を頭ごなしに否定したり、「それは違う」「そんなことはない」といった決めつけたりする態度は信頼関係を損ないます。
- 話の腰を折る: 相手が話している最中に話を遮ったり、自分の言いたいことに関連付けたりするのは避けます。
- 傾聴時間の不足: 忙しさを理由に、十分な対話時間を確保しないことは、新しいメンバーの孤立感を深める原因となります。
まとめ
新しいメンバーがチームに加わった初期段階におけるマネージャーの傾聴は、単なる歓迎の挨拶以上の意味を持ちます。それは、彼らの内に秘めた「本音」や「不安」、そして「期待」を聞き取ることで、彼らが安心して新しい環境に馴染み、早期に持てる能力を最大限に発揮するための土台を築く行為です。
傾聴を通じて得られた情報は、適切なサポートや情報提供、期待値の調整に繋がり、新しいメンバーの心理的安全性を高めます。その結果、早期のパフォーマンス向上、高いエンゲージメント、そしてチーム全体の生産性向上といった具体的な成果に結びつきます。
オンボーディングは短期間で完了するプロセスではありません。最初の数週間、数ヶ月間、継続的に新しいメンバーの話に耳を傾け、彼らの変化に寄り添うことこそが、チームを強化し、組織全体の成長を促すマネージャーの重要な役割と言えるでしょう。